もっと知りたい交流史 新科目『歴史総合』で『歴代宝案』を読む

 2022年度から、高等学校では歴史科目が大きく変わり、日本と世界の近現代史を学ぶ『歴史総合』が登場した。その上で、もっと歴史を学びたいと感じたならば『日本史探究』もしくは『世界史探究』どちらかを選択するという流れだ(【地理歴史編】高等学校学習指導要領解説(平成30年告示)解説)。『歴史総合』に限って言えば、沖縄県は全国に比べ大きなアドバンテージがあると感じている。世界にも日本にもつながる、地域史にとどまらない「琉球・沖縄史」が足下にあるからだ。

 琉球王国のウチナー世、「琉球処分」以降の大和世、沖縄戦終結以降のアメリカ世と、独自性に富んだ沖縄の歩みは、新たな科目でも度々登場する。その点からいえば、沖縄は歴史への興味・関心を引き出しやすい地域といえる。そこで、本サイト「琉球王国交流史・近代沖縄資料デジタルアーカイブ」掲載の『歴代宝案』を、『歴史総合』でどのように活用できるか考えてみた。

図1「中琉日貿易におけるモノの移動(「歴代宝案の栞」より)

 『歴代宝案』は漢文(読み下し文)で書かれているため、高校生だけでなく、なじみのない教員にとっても、容易に読解できる資料とはいえない。しかし、外国とのやりとりを記した文書がせっかく沖縄にあるのだから、その存在を伝え、授業で少しでも触れる機会をつくることで、生徒たちの歴史の視野を広げる一助になればと思う。

 『歴史総合』の冒頭では鎖国中の江戸幕府がどのようにして海外の情報や貿易品を入手していたかについて書かれている。そこで『歴代宝案』に登場する交易品を見てみよう。長崎の出島で交易を行い、琉球へ漂着した交易船には「海帯(=昆布)」「海参(=干しなまこ)」「鮑魚(=干しあわび)」が登場する(宝案2-27-10)。これらを俵物や鎖国当時の江戸の外交ルート「四つの口」の学びに絡めれば、東アジア内の繋がりや貿易の広がりがより感じられるのではないか。また、朝鮮に漂着した琉球人を中国経由で帰国させた事例など、漂流・漂着した人々を助け合う東アジアの送還システムに言及した教科書もあることから、そこで『歴代宝案』を利用するのもいいだろう(宝案1-39-18)。

図2「18世紀の東アジアにおける貿易と使節」(山川出版社『現代の歴史総合 みる・読み解く・考える』第1章第2節「貿易が結んだ世界と日本)より)

 イタリア人宣教師カスティリオーネが設計し、第2次アロー戦争でイギリスとフランスの連合軍に破壊された「円明園」についても、こちらのトップページで検索すると、琉球の進貢使がもてなしの宴を受けた文書がでてくる(宝案2-74-08)。私たちの祖先である琉球人が、歴史の舞台となった円明園で歓待を受けたことや、外国の客人をもてなすような場所を破壊した英仏両軍の行動をどう感じるかなど、生徒達に投げかけると、単なる歴史事象でしかなかったことがより身近に感じられるのではないだろうか。

 ちなみに、アヘン戦争では江戸幕府や薩摩藩が琉球の進貢船から情報を入手しているこうした情報を基に1842年、江戸幕府は薪水給与令を出すに至るが、法令1つをとってみてもその背後に琉球があったと知ることで、生徒達は違った視点で歴史を見つめることになると思う。

図3 琉球使節がかつて招かれた円明園の「山高水長閣」跡地遠景(2009年陳碩炫撮影)

 歴史科目が大きく変わる今だからこそ、より興味をそそる魅力的な教材開発に取り組むチャンスでもある。自分達の足下の歴史を絡めながら学びを進めることは、歴史を自分事として捉える姿勢につながるのではないだろうか。単に過去にあった出来事を知るだけでは歴史の学びは不十分だ。歴史を通して現代の課題を見つめ、将来を思考すること、そこに歴史を学ぶ意義がある。『歴代宝案』を通して、歴史的な出来事を少しでも身近なこととして感じることができれば、生徒達にとってその学びはきっと沖縄の将来を思考するきっかけになるはずである。歴史を深く学ぶツールとして本サイトを授業実践の場で活用し、生徒とともに歴史の本質に迫っていけたらと思う。

高良由加利(普天間高校 教諭)

【関連資料】
1.西里喜行「歴代宝案校訂本 第十三・十四冊解説」『歴代宝案校訂本第十三冊』(沖縄県教育委員会、2012年、p605)
2.真栄平房昭「アヘン戦争前後の東アジア国際関係と琉球」『第四回琉球・中国交渉史に関するシンポジウム論文集』沖縄県教育委員会、1999)

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