2-57-07　琉球国中山王尚穆の、乾隆三十七年の進貢のため、都通事蔡煕等に付した符文（乾隆三十七《一七七二》、十一、十一）
琉球国中山王尚（穆）、進貢の事の為にす。
照らし得たるに、本爵、世天朝の洪恩に沐し、会典に遵依して二年一貢し、欽遵して案に在り。
茲に乾隆三十七年の進貢の期に当たれば、特に耳目官向宣謨・正議大夫毛景成・都通事蔡煕等を遣わし、表章を齎捧し、梢役共に二百を過ぎざるの員名を率領し海船二隻に坐駕せしめ、煎熟硫黄一万二千六百觔・紅銅三千觔・煉熟白剛錫一千觔を装運して両船に分載す。一船の礼字第一百三号には煎熟硫黄六千三百觔・紅銅一千五百觔・煉熟白剛錫五百觔を装載し、一船の礼字第一百四号には煎熟硫黄六千三百觔・紅銅一千五百觔・煉熟白剛錫五百觔を装載し、前みて福建等処承宣布政使司に至りて投納し、起送して京に赴き叩きて聖禧を祝らしめんとす。
所有の差去せる員役は、文憑無ければ以て各処の官軍の阻留して便ならざるを致すを恐る。此れが為に、王府の礼字第一百二号半印勘合の符文一道を給発し、都通事蔡煕等に附し、収執して前去せしむ。如し経過の関津及び沿海の巡哨官軍の験実に遇えば、即便に放行し、留難して遅悞するを得る毋からしめよ。
須らく符文に至るべき者なり。
計開す
正使耳目官一員　　　向宣謨　　　　　人伴一十二名
副使正議大夫一員　　毛景成　　　　　人伴一十二名
朝京都通事一員　　蔡煕　　　　　　人伴七名
在船都通事二員　魏邦英／蔡卜爾　　　　　人伴八名
在船使者四員　　向宣烈　向緝誠／隆得譲　向宏煕　人伴一十六名
存留通事一員　　　王三徳　　　　　人伴六名
在船通事一員　　　楊文元　　　　　人伴四名
管船火長・直庫四名　鄭国楫　仲秉直／毛元鳶　厚成業
水梢共に一百二十名
右の符文は都通事蔡煕等に付し、此れを准けしむ
乾隆三十七年（一七七二）十一月十一日

注（1）魏邦英　雍正六～乾隆三十九年（一七二八～七四）。久米村系魏氏（渡佐次家）五世。高嶺親雲上。乾隆六年に豊見城間切高嶺地頭職を授かる。乾隆二十年遏達理座、二十五年都通事に陞る。乾隆三十七年の都通事として中国へ赴き、三十九年福州を出発した後、行方不明となった（『家譜（二）』三二頁）。
（2）蔡卜爾　我謝親雲上（『家譜（二）』四三八頁、孫惟仁の譜）。乾隆三十七年の在船都通事。
（3）向宣烈　乾隆三十七年の在船使者。『宝案』では乾隆二十九年の在船使者（巻四八）としても名がみえる。
（4）向緝誠　乾隆三十七年の在船使者。
（5）向宏煕　金城里之子親雲上朝恒（『家譜（三）』六二〇頁、麻眞岑の譜）。乾隆三十七年の在船使者。
（6）王三徳　雍正六～乾隆四十四年（一七二八～七九）。久米村系王氏（小渡家）六世。乾隆二十九年当座、三十年都通事に陞る。乾隆二十七年の二号船火長、三十七年の存留通事として中国へ赴いた。乾隆四十一年に蔡世昌とともに明清律例などを訳し賞罰法典（「琉球科律」）の制定に携わった（『家譜（二）』四頁）。
（7）楊文元　雍正四～乾隆五十一年（一七二六～八六）。久米村系楊氏五世。乾隆二十六年勢頭座敷、二十八年都通事、四十五年中議大夫に陞る。乾隆十七年に勤学として福州に赴き、十九年帰国した。乾隆二十二年に再び勤学として福州へ赴き、二十六年に漂着した琉球人を送還するための護送通事となり帰国。乾隆三十七年の二号船通事、四十九年の北京大通事を務めた。乾隆五十一年に福州にて病没（『楊姓家譜　元祖古波蔵筑登之』）。
（8）鄭国楫　乾隆三～三十九年（一七三八～七四）。久米村系鄭氏（池宮城家）十五世。乾隆二十三年に勤学として福州へ赴き、翌年帰国。乾隆三十七年の総官（管船火長）として中国へ赴き、三十九年に中国を出発後、暴風に遭い行方不明となった（『家譜（二）』五九七頁）。
（9）毛元鳶　乾隆三十七年の管船火長。